施術概要
今世紀に入ってからの美容医療の進歩とは、すなわち「しわ/たるみ」の予防と治療を初めとする「アンチ・エイジング」の進歩であると言えます。加齢に伴って皮膚の弾力性が乏しくなり筋膜や靭帯も緩むだけでなく、軟部組織そのもののボリューム、さらには骨格のボリュームも減少し、そこに表情筋のバランスの影響が加わることによって、容貌の加齢性変化は実に複雑な様相を呈します。「しわ/たるみ」の治療にあたっては、そうした複雑な要因を一つ一つ解きほぐし、主だった原因に対する「本質的な」治療を選択することが何よりも大切です。その目的を実現するため、当院では治療の大前提となるスキンケア指導のほか、最新鋭のレーザー・高周波ラジオ波による「切らない」治療から、内視鏡を使用した「低侵襲手術」まで、幅広いオプションをご用意致しております。
1. ペレヴェS5
高周波ラジオ波装置を用いたスキン・タイトニング法です。専用のハンドピースを装着し、皮膚の温度を40~42℃に保ちつつ目的部位をマッサージしていく方法で、その温熱効果により真皮深層よりコラーゲン再生を促し、そのマッサージ効果によりリンパの流れを促進して、自然かつ効率的なお肌の引き締めを実現します。全く無痛でむしろ心地よい治療のため麻酔は不要です。月に一度の治療となり、所要時間は顔全体で30分ほどです。施術直後から翌日にかけてやや赤く腫れぼったい感じになることがあります。ダウンタイムは1日ほどとごく短いため受けやすい治療法ですが、日本人の厚い皮膚には効果が現れにくい場合があることと、治療費が高額となりがちであることが難点です。起こり得る合併症としては、主に熱傷があげられます。
2. レーザー・ピーリング 【Qスイッチ】【フラクショナル】
皮膚表面よりレーザー・エネルギーを与え、その熱作用により表皮の再生と真皮でのコラーゲン再生を促します。小皺の改善に加えて、肌理の改善に効果的です。
当院では非アブレーション式レーザー(Qスイッチ・ヤグレーザー)と、アブレーション式レーザー(フラクショナル・エルビウムレーザー)を採用しています。お肌の状態により、これらのレーザーと高周波ラジオ波を適切に使用して、表皮から真皮深層に至るトータル・ケアを行います。
非アブレーション式レーザーは表皮を削らないレーザーであり、作用がよりマイルドでダウンタイムが短いことが特徴で、しわの治療に使用する場合は主に真皮浅層をターゲットにしています。アブレーション式レーザーは表皮を削るレーザーで、肌理の改善に大きな効果を発揮します。フラクショナル方式とは、全面を一様に照射するのではなく、規則正しい格子状に一定の間隔でごく小さな点状照射をすることにより、その効果を保ちつつも速やかな回復を実現し、大きく安全性を高めています。当院ではアブレーション式レーザーはもちろんのこと、非アブレーション式レーザーでもフラクショナル方式の選択が可能です。
所要時間は部位と面積によってまちまちですが、小範囲では10分程度~顔全体では1時間ほどかかる場合もあります。痛みですが、非アブレーション式はほぼ無痛です。アブレーション式では弾かれるような、あるいはチクッと刺すような痛みがあり、専用クリームを使用した表面麻酔を行います。ダウンタイムは非アブレーション式で1日以内、アブレーション式では2週間ほどを見て戴いた方が良いでしょう。施術後の日焼け対策と、お肌に無理なストレスを与えない適切なスキンケアがとても大切になります。
3. ボトックス療法
皮膚の弾力性の低下とともに、表情筋の動きは「しわ」を生む原因ともなり、そこに過緊張があると「しわ」は深くなります。ボツリヌス・トキシン(ボトックスビスタ®)は筋肉と支配神経の接合部に作用し、表情筋の過緊張を和らげることにより「しわ」の解消と予防を目指します。「額のしわ」解消には前頭筋、「眉間のしわ」解消には鼻根筋や皺鼻筋、「目尻のしわ」解消には眼輪筋が主な治療ターゲットになります。表情筋の「バランスを整える」効果を利用して、「えら解消」など顔の輪郭形成にも使用します。
所要時間は10分程度、ダウンタイムは3日以内と軽いもので、効果はだいたい3~6か月間持続します。ボトックスは単独での治療法としても使いますが、他の方法と組み合わせて互いに補完させる場合、より効果的な治療法となります。起こり得る合併症としては、施術後の内出血、効果の左右差によるアンバランス、目的とする表情筋以外への作用波及があります。また、特に額のシワ治療に使用する場合、事前に眼瞼下垂症状が潜在していないか、評価を行うことが大切です。眼瞼下垂症ではその代償作用として額の筋肉を無意識に使っており、額にシワが生じる大きな原因となっていますが、ボトックス療法により額の筋肉の動きを抑えることにより、代償されていた眼瞼下垂症状(瞼が重い、上が見づらい、など)が表に出て来ることになります。その場合は、ボトックス療法ではなく、眼瞼下垂症治療を優先させることをお勧めしております。
4. ボリューム補充(マイクロファットグラフト、ヒアルロン酸)
年齢に伴う容貌の変化には、皮膚や筋膜や靭帯の緩みだけでなく、組織のボリューム減少がその主な原因の一つとしてとても重要であり、中等度以上の「たるみ」に対しては、単にお肌の引き締めやリフトアップに終始するだけでなく、減少したボリュームを補ってあげることがとても大切になります。この目的には「フィラー」と総称されるさまざまな充填物が利用されますが、なかでもコールマン法による脂肪注入法(マイクロファットグラフト)は生着率も高く効果も長期間持続し、手技的にも自然かつ微妙なニュアンスを出しうることなど臨床上の利点のみならず、費用対効果の面でも優れた方法のひとつです。
脂肪採取と精製および注入には、Tulip®のセルフレンドリーシステムを採用しています。まずお腹や太腿の脂肪採取範囲にTumescent液(麻酔薬と止血薬を生理的食塩水で希釈したもの)を十分に注入し、組織に優しい専用の細いカニューレを挿入し必要な脂肪量を採取します。採取した脂肪は遠心分離を行い、壊れた細胞成分などを取り除いて精製し、「活きた」脂肪細胞分画のみ注入に使用します。注入にも専用のカニューレを使用し、目的部位に少量ずつ注入し組織のボリュームを補います。小範囲の治療は局所麻酔で可能ですが、リフトアップ手術に併せて行う場合は、原則として全身麻酔での治療となります。
ボリューム補充の目的には、マイクロファットグラフトの他にも長期間持続タイプのヒアルロン酸を注入する方法もあります。当院では国内で唯一認可となっているアラガン社製品を使用しており、ご要望に応じて選択致します。効果の持続ではマイクロファットグラフトには及びませんが、その反面、ヒアルロン酸分解酵素による術後修正が可能であるという利点があります。
脂肪注入、ヒアルロン酸注入とも、起こり得る合併症としては、局所内出血、感染、余剰瘢痕組織形成などのリスクがあります。
所要時間は小範囲の場合で1時間ほど、リフトアップと併せて行う場合はプラス1時間ほど、ダウンタイムは小範囲単独治療の場合で2週間ほどを見て戴いた方がよろしいでしょう。
5. 眼瞼リフト 【顕微鏡手術】
他のリフトアップ手術と対比させる意味で、上下の瞼のたるみを解消する手術を総称して、便宜上「眼瞼リフト」と呼ぶことにします。一般的にリフトアップ手術は、レーザーをはじめとする「切らない」治療では、もはや十分な対応が困難となった方が対象となります。リフトアップ手術全般を通じて言えることですが、皮膚や脂肪などの「見かけ上の余剰組織」を取るだけの手術では十分な効果を挙げることは出来ません。
年齢に伴う容貌の変化は、まず「組織のボリューム減少」がその根底にあり、これに皮膚の弾力性の低下や筋膜・靭帯の弛緩を伴って生じる見た目の変化は、あくまでトータルでの結果にしか過ぎません。年齢とともに減少傾向にある組織はなるべく温存しつつ、顔の要所で皮膚と深層を繋いでいる保持靭帯を一旦解除して、組織の局在バランスを改善することがリフトアップ手術の第一の目標となります。もちろん、再構成の後にも明らかに余ってしまう組織は取り除く必要がありますが、想像以上に「余り」は出るものではなく、むしろ脂肪注入法(マイクロファットグラフト)などによる「ボリューム補充」が必要なことがしばしばです。
また、ごく初期の加齢性変化に留まるような方を除き、上瞼と下瞼は別々に考えるのではなく、「眼窩部(目元)」として一つのユニットとして考え、隣接する額~眉、ミッドフェイス領域との「自然な移行」を目指して対応しなければ、十分な効果を挙げることは出来ません。
上瞼のリフトアップは比較的一本道で、その多くは眼瞼下垂症治療に準じた方法です。組織の十分な授動とリフトアップ固定が主な操作となり、皮膚や眼窩脂肪の切除は最小限に留めています。
これに対して下瞼のリフトアップは、そのアプローチ法、眼窩脂肪の取り扱い、瞼縁の取り扱いなど考慮すべき点も多く、またミッドフェイスとも密接に関連しているため、事前の詳細な検討がさらに大切になります。下瞼そのものへのアプローチ法として ①経結膜アプローチ ②睫毛下アプローチ の二通りの方法があり、組織は可能な限り温存し再構成、瞼縁は明確な基準のもと精密計測のうえ切除量など処理法を決定します。リフトアップ固定には、必要に応じエンドタインを使用します。これは複数の突起を持った吸収性のリフトアップ固定専用デバイスで、通常の縫合による吊り上げ固定よりも均一かつ組織に負担の少ない安定したリフトアップが可能になることが大きな利点です。睫毛下アプローチの場合は眼輪筋皮弁を一連の組織としてリフトアップ縫合するre-contouring法を主に行っています。
手術時間は内容にもよりますが、両眼上瞼だけの場合は2時間ほど、両眼上下瞼で2~4時間ほどかかります。麻酔は局所麻酔で可能ですが、他の手術と併せて行う場合も多く、操作範囲が広くやや長時間となる場合は全身麻酔をお勧めしています。ダウンタイムは基本的に1か月間を見て戴くのがよろしいでしょう。
起こり得る合併症としては、術後血種、感染、過剰ないしは不十分な矯正などがあり、状況により再手術を要する場合があります。
6. 前額・眉毛リフト 【内視鏡手術】【エンドタイン】
額のしわや眉毛(特に外側)の下垂は、顔貌の加齢性変化として早期から現れる症状の一つです。顔のエステティック・ユニットとしては最も上に位置する部位であり、この部分のリフトアップ効果は額や眉に留まらず、目元~ミッドフェイスに至る顔の主要部分の若返りにも大きな効果を発揮します。
この手術はもともと冠状切開(両こめかみの上部からちょうどヘアバンドを掛けるラインを大きく切開する)よりアプローチすることが必要であり、美容手術としては身体的にも心理的にも負担が大きい手術でした。しかしながら内視鏡による低侵襲手術法の発展により、髪の毛に隠れる部分に小切開を置き、そこから内視鏡を入れて内部を見ながら必要な処理を行うことが可能となり、現代の美容外科では鏡視下手術がスタンダードの一つとなっています。
眉毛リフトの場合は両側の側頭部に計2か所、前額リフトの場合はこれに加えて正中切開とその両側に傍正中切開の計5か所の小切開を置きます。深側頭筋膜浅葉上~帽状腱膜下~一部骨膜下を順次剥離しつつ眼窩周囲と側頭部の接着を解除し、その部分の皮膚軟部組織を移動させ再構成することが出来るよう下準備をします。さらに皺鼻筋と鼻根筋の処理を行い、全体のバランスを確認しながら適切な位置にリフトアップ固定します。固定にはエンドタイン(Endotine Forehead)を主に利用します。これは通常の縫合による吊り上げ固定よりも均一かつ組織に負担の少ない安定したリフトアップが可能になることが大きな利点です。特にリフトアップすべき組織量が多い手術では非常に有効です。
手術は全身麻酔手術となり、所要時間は2時間程度、ダウンタイムは2週間を目安にしてください。小切開部はすべて髪の毛に隠れる位置であり、手術に際しては毛包を出来る限り温存するよう配慮していますので、順調に経過すれば傷痕はほとんど分からなくなります。抜糸は1週目に行います。
起こり得る合併症としては、術後血種、感染など一般的な手術合併症のほか、この部位に特異的なものとして、顔面神経側頭枝障害(額にシワを寄せることが出来ない、障害側の瞼が重い、など)があります。対応としてはビタミン剤内服など保存的加療のほか、麻痺症状に対応したリフトアップ手術を要する場合があります。
7. ミッドフェイスリフト 【内視鏡手術】【エンドタイン】
主に頬部をターゲットとしたリフトアップ手術であり、いわゆるフェイスリフト手術の主たる目標部位の一つです。この手術にも前額・眉毛リフトと同じく、内視鏡を積極的に活用します。
切開は眉毛リフトを同時に行う場合は、同じ両側側頭部の小切開による側頭アプローチにて操作を行います。ミッドフェイスは下瞼と密接に関連しており、実際にはミッドフェイスリフトは下瞼リフトを伴うことが多いです。アプローチ法として ①側頭アプローチ(鏡視下手術) ②経結膜アプローチ(直視下手術) ③睫毛下アプローチ(直視下+鏡視下手術) の3つの方法があり、下瞼の状態に応じてどの方法が適切なのかよく検討する必要があります。
剥離は鏡視下にミッドフェイスを骨膜下に広く行い、保持靭帯を解除した後に全体のバランスを見ながらリフトアップ操作を行います。リフトアップ固定は、①側頭アプローチの場合はEndotine Midface ST ②経結膜アプローチの場合はEndotine Midface B ③睫毛下アプローチの場合は眼輪筋皮弁を一連の組織としてリフトアップ縫合するre-contouring法 を行っています。
全身麻酔手術となり、所要時間は2時間程度、ダウンタイムは2週間を目安にしてください。抜糸は1週目で行います。起こり得る合併症としては、術後血種や感染などの一般的なもの以外では、特に顔面神経および三叉神経損傷が問題となるところです。剥離していく層によって、症状とそのリスクの頻度は異なりますが、対応は保存的加療のほか、それぞれの麻痺症状に対応するリフトアップ手術を要する場合があります。
8. フルフェイスリフト 【内視鏡手術】【エンドタイン】
額や眉・目元からミッドフェイスに至るリフトアップに加えて、あごからくびのリフトアップを併せて行う最もアグレッシブな治療法です。この手術が必要とされるほど年齢に伴う変化が著しいケースでは、リフトアップ手術だけではなく事前のスキンケア、高周波ラジオ波やレーザーによるスキン・タイトニング、さらにはPRP療法や脂肪注入などの補充療法も大切な役割を果たします。
また、顔からくびにかけて全体として考えた場合、上半分(額~頬)に比べて下半分(あご~くび)は、実際に皮膚の余りが出るケースが多いことが特徴であり、余剰皮膚のトリミングに必要な切開が、そのままフルフェイスリフトのための切開となります。このため切開は、耳前部から耳介後部にかけてのいわゆる「フェイスリフト切開」と、広頚筋の引き締めには「オトガイ下切開」が必要になります。
あご~くびの治療でも内視鏡は部分的に有効ですが、操作部位が頭髪部から遠く離れており起伏に富む部位でもあるため、スコープの挿入角度や取り廻し的に問題が生じます。また切開線はトリミングが必要な余剰皮膚の量によって決まるため、「小さい隠れた傷」という鏡視下手術の利点はあまり生かされないことからも、上半分のリフトアップとは対照的に、下半分のリフトアップは直視下手術が主体となります。
リフトアップ固定に際しては、皮膚に過剰な負担がかからないようエンドタイン(Endotine Ribon)を使用します。全身麻酔での手術であり、手術時間はオプションにもよりますが、脂肪注入と併せたフルコースの場合は6時間を標準としています。ダウンタイムも最も長くなる治療法であり、少なくとも2週間から3週間を見て戴く必要があります。起こり得る合併症としては、術後血種や感染のほか、顔面神経や三叉神経障害が広範に起こるケースもあり、その対応はより複雑かつ長期に及ぶ可能性があります。